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長崎家庭裁判所 昭和48年(家イ)237号 審判

申立人 国籍 日本 住所 長崎市

李春江(仮名)

相手方 国籍 韓国 住所 長崎市

李永義(仮名)

主文

申立人と相手方との昭和二七年二月一一日長崎市長受付により届出た婚姻が無効であることを確認する。

理由

(本件申立の実情)

申立人は主文と同旨の調停(審判)を求め、その事由として次のとおり述べた。すなわち、申立人はもと長崎県○○郡○○町○○○番地(戸主田中治)に本籍を有した日本人であるところ、昭和二七年二月一一日長崎市長に相手方との婚姻の届出をなし、右本籍戸主田中治の戸籍中の申立人の身分事項欄に「李永義と婚姻届出昭和二七年二月一一日長崎市長受付同月一三日送付慶尚北道善山郡善山面生谷洞二区李日東戸籍に入籍につき除籍」と記載のうえ除籍された。申立人は相手方との間に長男李占文(昭和二六年一二月二一日生)長女李和子(昭和二九年五月五日生)を儲けた。ところが、申立人はその後に至り、相手方が申立人との婚姻前である西暦一九三六年(昭和一一年)七月一二日すでに朴日鮮と婚姻していた事実を知つた(同女は西暦一九六一年三月一六日死亡)。そうすると、申立人と相手方の婚姻は重婚であり、本件婚姻当時における相手方の本国(韓国)においては慣習法により無効とされているので、申立人、相手方の婚姻が無効であることの確認を求める、というのである。

(当裁判所の判断)

当裁判所は昭和四八年七月二日午後一時三〇分調停期日を開いたところ、当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつ原因事実についても争がない。

そこで、当裁判所は更に必要な事実につき調査したところ、本件記録中の戸主田中治の原戸籍謄本、戸主李起聖の戸籍謄本、李占文、李和子の各出生届謄本、および当裁判所の申立人、相手方に対する各審問の結果、申立人、相手方の各登録済証明書を総合すれば、申立人の前記申立にかかる事実のほか、戸主田中治の右戸籍の謄本中申立人の身分事項には、前記の如く、李日東戸籍に入籍の旨記載されているが、実際は同戸籍には相手方の妻として入籍しておらず、従つて申立人は、現在、無戸籍の状態にあること、および申立人は相手方と婚姻後五年位たつたとき同人にすでに妻朴日鮮がいて、申立人と相手方との婚姻は重婚となることを知つたが、当時同女が日本に渡航することが至難な事情にあつたので、同女の存在が、申立人と相手方の同棲生活に支障を来たさないため、一緒に生活していたが、一年位前に別居し現在に至つていること等が認められる。

ところで、婚姻成立の要件についての準拠法である法例一三条一項によれば、右要件は各当事者につき各その本国法によつて定むべきところ、重婚に関し、申立人については日本民法七三二条および七四四条により婚姻取消の原因になるが、前記の如く前婚の妻朴日鮮が西暦一九六一年(昭和三六年)三月一六日死亡したので、その後は重婚の違法性は治癒され、も早相手方との婚姻を取消すことが許されないものと解すべきであり、一方相手方については、その本国たる韓国においては、本件婚姻当時は婚姻に関する成文の規定がなく従来の慣習法により当然無効とされていた。

ところが、韓国において檀記四二九三年(昭和三五年)一月一日より大韓民国民法が施行され、同法八一六条一号八一〇条により重婚は婚姻取消事由とされているが、同法附則二条但書は同条本文の遡及効適用の例外として、すでに旧法によつて生じた効力に影響を及さない旨規定し同法の遡及効を制限しているので、同法施行前の重婚は前記法条の新設にかかわらず、従前の慣習法に従つて当然無効といわねばならない。なお同法附則一八条一項は本法により取消の原因となる事由があるときは、本法の規定によりこれを取消すことができると規定しているが、この規定は、同法施行当事有効と認められる婚姻に関するものと解されるし、また重婚に関する無効確認を全く許さない趣旨のものとも考えられない。附則一八条一項は民法施行前の重婚を旧来の慣習法に従つて無効と解することにつき妨げとなるものとは考えられない。そうすると、結局同法施行前になされた申立人と相手方の婚姻(重婚)は慣習法により当然無効といわねばならない。

ところで、本件の如く当事者双方の本国法の婚姻の成立要件に関する規定が異なる場合には、当該要件の欠缺に対し厳重な効果を認める規定が基準として適用せらるべきものにして、本件についていえば、重婚を無効とする韓国の慣習法に従うことになるので、本件当事者間の婚姻は無効であるということができる。

そうすると、本件当事者間における前記合意は相当と認められるので、調停委員園田格、同諸態操の意見を聴いたうえ、合意に相当する審判をすることとし、家事審判法二三条に従い主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤田哲夫)

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